第10章 Blue Sky
「大変ご迷惑をおかけしました!」
二日後の朝、無事救護詰所を退院した沙羅は十三番隊の隊舎に入るなり頭を下げていた。
それを笑顔で迎える隊士たちの前に浮竹が歩みでて、心配そうに眉をひそめる。
「そんなことはいい。それよりも本当に回復したのか? 松本の話じゃ一昨日も倒れたらしいじゃないか。まだ辛いならもう何日か――」
「あれはただの立ちくらみですって! 本当にもう大丈夫ですから」
またあの白い病室に閉じこめられてはたまらない、と沙羅は慌てて首を振った。
そうしてなんとか浮竹を言いくるめて職務復帰を果たすことに成功した沙羅に、隊士たちは歓声を上げて喜んだ。もはや十三番隊の中枢ともいえる副隊長の復帰は、彼らの心に確かな安堵をもたらしていた。
それから数日が過ぎた頃、怒涛の仕事ぶりで一週間分の業務もあらかた片づけたところで、沙羅は「また倒れられては敵わない」と険しい面持ちを浮かべた浮竹から半ば強制的に休暇を取らされた。
「隊長、もう本当に大丈夫ですって……」
「また救護詰所に戻されたいのか?」
本気の顔で首を傾ける浮竹。脅し文句とも取れるその言い様に苦笑しつつも、そこに含まれた心遣いを否応なしに感じて沙羅は素直に感謝の意を口にした。
かくして迎えた休日の朝。早朝のうちから身支度を整えた沙羅は、大きく息を吸いこんで自室を出た。
向かう先は――穿界門。
そして、その先に広がる世界の片隅に存在する、小さな公園。
「……行かなきゃ」
きゅっと死覇装の襟を整えて、沙羅は大きく一歩踏みだした。
遠い記憶の彼方に埋もれている真実はきっとこの先にある。
そんな気がした――
***
《Blue Sky…青く澄みわたる空》
タイトルは第8話『Cold Rain』との対比。止まない雨なんてない。