第10章 Blue Sky
浮竹に副隊長の辞任を願いでたのは、なにも隊士たちを護れなかった責任を感じてだけのことではない。それこそ先程乱菊がもらした台詞そのままに、沙羅もまた自分に自信がなかった。
あの哀しい真実を告げられた雨の日。
「殺せ」と斬魄刀を握らせたウルキオラに、沙羅はそのまま刃を突き立てることなどできなかった。
相手は隊士たちを殺した憎むべき仇なのに。
十刃、なのに。
苦しそうに顔を歪めて背を向けた彼を、できることならすぐにでも追いかけたかった。
『行かないで』
そうすがりつきたかった。
もしもあのとき、ウルキオラが立ちどまって振り返ってくれたのなら
私は迷わずそうしていたと思う。
そう考えたとき自分がどうしようもなく恐ろしくなった。
隊士たちの家族の嘆きが今も耳に焼きついて離れないのに。その元凶となった男を、そんなにも易々と赦してしまうのかと。
そしてそんな自分が隊の副隊長などという立場を担っているという現実にまた戦慄した。
隊士の仇も討てないような私が、副隊長であっていいはずがない。そう思って。
けれど同じ恐怖を抱えているはずの乱菊はそれでもやめないと言う。
『ギンと向き合いたい』
そう放った彼女は、きっと自分とも向き合おうとしているのだとわかった。
少なくとも今の私にはそんな強さはない。
ウルキオラを信じることも、敵だと割りきることも、できない。
だけど今は副隊長としてなすべきことがある。不安定に揺れる十三番隊を立て直すという使命がある。
それを全うすることが、儚くも散った隊士たちへのせめてもの償い。そう思わなければ。
だから、今はまだ、全てを受けとめることはできないけど。
涙が滲むのを止められないけど。
少しずつ、前に進みたい。
「私も……強くなれるかな」
「そう思い続ける限り、人はいくらでも強くなるものよ」
乱菊の言葉に顔を高く上げた。
青く澄みわたる空にほんの小さな決意を掲げて。