第10章 Blue Sky
「……強いね。乱菊は」
思わずもらした呟きに乱菊は小さく首を横に振る。
「強くなんかない。本当は怖くて仕方ないわ。だけど……信じたいの」
「市丸隊長を……?」
「そ。ギンがあたしたちを裏切ったのは事実だし、今あいつが何を考えているのかなんてあたしにはわからない。ただ……今までにあたしに見せてくれた優しさとか、かけてくれた言葉とか、そういうのは嘘じゃなかったんじゃないかって思いたいだけ。自分の都合のいいように考えてるだけよ。強くなんかないわ」
そう言いきる乱菊は何か吹っ切ったような清々しい笑みを浮かべている。それを沙羅はすごいと思う。
「……ううん。乱菊は強いよ……」
自分も彼女のように強くなれたらどれだけいいか。その想いは余計に己の弱さを痛感させる。
本音を言えば、信じたい。
あの優しさも
あの微笑みも
あの温もりも
全て嘘なんかじゃないって、そう信じたい。
けどできない。信じて、また傷つくのが怖いから。
それは紛れもなく沙羅自身の弱さだ。
「疑うより……信じるほうがずっと難しいものなんだね……」
風に溶けるように放たれた沙羅の呟きに、乱菊は肯定も否定も返さなかった。ただじっと空を仰ぐ沙羅の横顔を痛ましげに見つめる。
「……沙羅。あんた――」
「気持ちの整理がついたら、ちゃんと話す。……ごめん、それまで待って」
乱菊が言わんとしていることはわかる。だけど、今はどうか触れないでほしい。
そう願いながら膝を抱えて顔をうずめれば隣でふっと笑みがこぼれる気配がした。
「別に謝ることじゃないでしょ。あんたが言いたいと思ったときに言えばいいんだから」
普段は意地でも吐かせようとするはずの彼女が、こんなときだけ妙に物分かりがよくて。親友の心遣いに沙羅は心底感謝し、うんと頷いた。