第10章 Blue Sky
「乱菊……市丸隊長は……」
「いいのよ、気ィ遣って『隊長』なんて呼ばなくても。もうあいつは護廷隊士じゃない。ただの反逆者なんだから」
世間話をするかのような軽い語り口で乱菊は言う。だがその表情に笑みはない。
「たまにね、思うのよ。このまま破面との争いが続けば、いつかギンとも闘うことになるのかってね」
「……」
「そのとき……あいつはどうするのかしらね。なんの迷いもなくあたしを突き放すのかしら。――あのときみたいに」
藍染による謀反の一件が、今なお乱菊の心をひどく痛めつけていることを沙羅は知っていた。
「きっと……どうしても譲れない理由があったんだよ。そうじゃなきゃ市丸隊長があんなことするはずない」
必死に言葉を綴りながらも、そんな憶測の範囲を出ない返答しかできない自分を不甲斐なく思う。せめてもう少し気休めになる言葉でもかけてやれたらよかったのに。
だが乱菊は張りつめていた表情をわずかに和らげた。
「……そう言ってくれるのはあんたと吉良だけよ」
少し寂しそうに笑いながら。
「ま、仕方ないわよね。あんな喰えない奴、誰も信じようだなんて思わないわよ」
ぼやくようにそう言って、乱菊は瞼を閉じた。今はもう思い出の中にしか残らないその人の面影を求めて。
「……正直自信がないの。ギンを前にして、あたしは刀を構えることができるのかって。そしてそんな迷いを抱いている人間が、副隊長なんかでいていいのか――って」
乱菊の言葉はそのまま沙羅の心中を語っているかのようだった。
彼女の気持ちが今の沙羅には痛いほどにわかる。その葛藤も、その苦しみも。
「それでもやめない?」
沙羅の問いかけに乱菊は静かに身体を起こした。
「……やめない。ここで副隊長をやめても、護廷を抜けても、なんの解決にもならないもの」
胸を揺さぶる葛藤も、逃げだしたくなる弱さも押し殺して。
「もう一度、ちゃんと向き合いたいの。ギンと」
そう語る乱菊の横顔は凛とした強さを帯びていた。