第10章 Blue Sky
うららかな春の陽気は救護詰所前の噴水庭園にも明るく降りそそいでいた。
「ん~! 久々の外は気持ちいい~!」
胸いっぱいに空気を吸い込んで、沙羅はごろんと芝生に寝転がる。頬に触れる芝生からふわりと太陽の香りがして心地良い。
「まったく、病人とは思えないわ」
「だからもう病人じゃないんだってば。隊長が心配しすぎなの」
「あら。それっていつも浮竹隊長が言ってる台詞よ。『気にかけてくれるのはありがたいが、沙羅は心配性すぎて困る』ってね」
「……う」
確かに、浮竹がいくら体調が良いからと主張しようが、それも一切聞き入れずに寝室に押し返したことは幾度となくある。
彼の身を案じるが故に取っていた行動だったが――当の本人はこんなにも歯がゆい思いをしていたのかと思うと急に申し訳なく思えてきた。
「私……今度からもっと隊長の意見も聞いてあげることにする」
「あはは! 浮竹隊長はあんたにそれを悟ってほしくて長期入院させたのかもね~」
乱菊がカラカラと笑いながら言った台詞があながち的外れとも思えず、沙羅は「そうかも」と苦笑した。
「……ね、乱菊?」
「んー?」
空を流れていく白い雲を眺めながら口火を切る。
「乱菊はさ、自分が副隊長やってていいのかなって迷うことない?」
「そんなのしょっちゅうよ」
「そうなの?」
隣で同じように寝転がって空を見上げている乱菊に驚いた顔で視線を向ける。いつも前向きで自信に満ちている彼女が、自分と同じ迷いを抱いていたなんて意外だった。
「あんまり考えないようにはしてるんだけどね。やっぱりふとしたときに思い出しちゃうの」
いつもまっすぐ前だけに向けられているはずの瞳が、流れる雲を追いながら心なしか寂しそうに揺らぐ。
「あいつのこと……」
それが誰を指してのものなのかは聞かずともわかった。