第10章 Blue Sky
「それにしても過労で倒れるなんて、あんたらしいってゆーかねぇ」
お土産品のリンゴを頬張りながらあけすけと言い放つ乱菊。彼女のこういう物怖じしないところが沙羅は好きだ。
「私もびっくりした。全然自覚なかったもの」
シャク、とリンゴを一口噛んで沙羅は肩をすくめる。
ちなみにこのリンゴの皮を剥いたのも沙羅である。乱菊に剥かせようものならきっと身が半分以下になってしまうに違いないから――などということはもちろん口には出さずに、沙羅は率先して果物ナイフを握っていた。
やがてひとしきり世間話を終えた頃、沙羅はぽつりと切りだした。
「ね。ちょっと外に出ない?」
「はぁ!? あんた少しは身の程わきまえなさいよね。いくら元気がありあまってようが病人は病人よ」
珍しくまともなことを言う乱菊に、それでも、と食い下がる。
「少しぐらい大丈夫。無理もしないから! ね、いいでしょ?」
口調とは裏腹に真剣な面持ちで乱菊を見上げた。
白い天井、白い壁、白い布団。一面白に包まれたこの部屋はどうしても彼を思い起こさせる。いくら頭から退けても浮かびあがる白い残像に、沙羅はこの五日間で辟易していた。
言外に発せられたそのSOSを感じ取ったのか、乱菊は短く嘆息すると「しょうがないわね」と笑ってみせた。
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