第8章 Cold Rain
「どうして……」
震える唇が小刻みにわななく。
「どうして殺したの……っ!」
喉を詰まらせて糾弾を浴びせる沙羅にウルキオラは唇を噛みしめる。
できることなら、彼女のこんな苦しそうな表情を見たくはない。
けれど目を逸らすことは赦されない。これは自身の犯した罪の代償だ。
『主に与えられた命だから』
そう口にするのは簡単だろう。けれどそんな理由で赦されるはずもないことは十分にわかっていた。
『本当は殺したくなかった』
『君を哀しませたくなかった』
『虚の本能に駆り立てられた』
全部――全部自分に都合のいい言い訳ばかり。
だから彼女には言えない。
「…………すまない」
ただ、そう告げることしか、できない。
「すまない……?」
ポタリ、と。沙羅の長い髪を伝った雨が大地に沈む。
「謝るぐらいならどうして殺したの……?」
震える声は押し殺した激情を伴って放たれる。
「今更謝られたって……みんなはもういないのに」
どれだけ願い、祈りをこめても
決して手の届かない場所へ逝ってしまった。
「もう誰も帰ってこないのに――!」
シャンッ
抜刀と同時、一歩で距離を詰めた。
そして沙羅はその白い首めがけて迷うことなく斬魄刀を振り下ろした。
*