第1章 Under the Cherry
「――以上、十番隊副隊長松本乱菊、十三番隊第七席草薙沙羅より報告……っと。きゃー! 終わった終わったー!」
最後の報告書を懐にしまって歓声を上げる乱菊。その隣で沙羅もほっと肩の力を抜いた。
「お疲れ様。予定よりだいぶ早く終わったね」
「終わったんじゃなくて終わらせたのよ。さっ、早く行きましょ!」
「え?」
どこに、と問いかける沙羅に乱菊は「はぁ?」と片眉をつりあげる。
「ばっかねぇ。街に決まってるでしょ! 現世にはおしゃれなショップがいっぱいあるし、うるさい監視の目はないし、遊び放題じゃない!」
「……乱菊。今回の任務、やけに張りきってると思ったらそのせい?」
「なによ今さら。あったりまえでしょ」
ひとかけらの迷いも見せずに頷く乱菊に沙羅はガクリとうなだれた。
いつになく真剣な様子で任務に取りくむ彼女を見て、「ああ、やっぱり副隊長だな」とひそかに感心していたのに。
「あのね。私たちが必要以上に現世に干渉することは禁じられてるでしょ」
「あーもう、だからあんたは固いって言ってんのよ。いーい沙羅? 人生楽しんだもん勝ちよ。黙って待ってたって楽しいことなんて起こりゃしないんだから」
「そういう問題じゃ……」
「とーにーかーく! あたしは適当に回ってくるから、またあとで合流しましょ。三時間後にここに集合よ、いいわね?」
「ら、」
呼びとめる間もなく乱菊の姿は消えていた。
「――ったくもう」
やれやれと息をついて、辺りを見回す。
さて、今から三時間。どうしよう。
さすがに乱菊のように義骸に入って街へ繰りだそうという気にはなれない。
おとなしく待つにしても、いくら霊体とはいえ霊力がある人間には気づかれないとも限らないし。
そう思うと、自然足は人気のない方向へと向かっていた。