第7章 You Can Cry
「……雲行きが怪しくなってきたな。そろそろ帰ろう」
頭上の黒い雲を眺めて腰を上げたルキアに沙羅は追随しなかった。
「ごめん。私ちょっと寄りたいところがあるから先に帰っててくれる?」
「……」
「大丈夫だよ、すぐに帰るから」
咄嗟に眉間に皺を寄せたルキアに苦笑を浮かべてそう約束すると、彼女は渋々頷いた。
「絶対にすぐ戻ってくるんだぞ」
「はーい」
笑いながら去っていく背中を見送って、ルキアはここにきて三度目となるため息をもらした。
「私ではだめなのだな……」
泣いてもいいと言ってもなお、沙羅は涙をこらえた。
副隊長という重圧は、それほどまでに彼女に重くのしかかっているのか。
ならば自分の前でなくともいい。
ただ、どうか沙羅が思いのままに泣ける場所があるように。
そして、どうか彼女の涙を拭ってくれる人がいるように。
遠ざかる後ろ姿にルキアは心から祈りをこめた。
*