第7章 You Can Cry
「おまえの気持ちはわかる。私も――海燕殿を手にかけたときはこれ以上ないほどの自責の念に苛まれた」
苦しげな声でそうこぼすと、沙羅はすぐさま反応した。
「……ルキア。何度も言ったでしょう? ルキアは海燕先輩を救いだしたんだって」
「そうだ。おまえがそう諭してくれた」
もう何年も前の記憶を思い返しながらルキアは頷いた。
どうして彼が死ななければならなかったのか。
どうして自分が生き残ってしまったのか。
死ぬべきは誰からも愛されたあの副隊長ではない、無力な自分だったのに。
こらえようのない罪の重さに押し潰されそうになりながら、しかしそれを償う手段も見つけられずにただ抜け殻のように日々を生きていた。
そんなルキアの横っ面を容赦なく引っぱたき、「そんなんじゃ海燕先輩が哀しむ!」と一喝したのは他でもない沙羅だ。
自室に引きこもりがちだったルキアを無理やり引っぱりだした彼女はこう告げた。
『私たちが前を向いて生きること。それが海燕先輩の一番の願いだよ』
そう鮮やかに微笑んで
『だから……泣いていいんだよ、ルキア?』
涙を流すことで前に踏みだせるのなら、それを躊躇うことはない。好きなだけ泣いて、そして笑えばいいのだと。
一点の曇りのない笑顔でそう言いきってくれた。
海燕の死後、ルキアが涙を流したのはそれが初めてだった。
「おまえのおかげで私は再び前を向くことができた。おまえが泣いてもいいと言ってくれたから。――だから、沙羅」
自分をはっきりと見据えるルキアの瞳を沙羅は見つめ返した。
「おまえもこれ以上……無理に明るく振る舞わなくていい」
慈愛といたわりに満ちた瞳だった。心まで温かくなるような。
沙羅はふっと表情を緩めると、手向けた花束に目をやった。
護れなかった命。
前を向いて生きることが、その贖罪になるのなら。
「ありがとう……」
顔を上げた沙羅はまるで泣き笑いのような顔だった。それでも涙を流さなかったのは彼女の強さだ。
「ルキア……ありがとう」
もう一度そう告げて、沙羅はきゅっとルキアの手を握りしめた。
深く澄んだ濃紫の瞳はうっすらと潤んでいた。