第5章 Calling You
「そういえば――私たちってまだお互いのこと全然知らないね」
ガトーショコラの残りを包みに戻して懐にしまうウルキオラを横目に、沙羅はふと呟いた。
「知りたいのか?」
「え、あ、そういう意味じゃ――」
もごもごと口ごもるとからかうような瞳とぶつかった。
ような、じゃない。確実にからかっているのだ。
「もう! ウルキオラ!」
ばっと手を挙げると薄く笑って降参のポーズを取る。
こんな他愛のないやりとりを交わすようになったのもここ最近の間だ。この桜の木の下で出逢ってからというもの、回を重ねるごとにふたりの距離は急速に縮まっていた。
だが――……
「知らないほうがいいこともある」
「え……」
ウルキオラが何気なくもらしたその言葉に、沙羅は瞳を惑わせる。
「俺は破面でおまえは死神だ。それは変えようのない事実だろう?」
そう告げる彼の横顔は平静を装っているようで、どこか物哀しさが窺えた。それにつられてきゅっと唇を結ぶ沙羅に、ウルキオラは儚げに微笑んで。
「……案ずるな。今更おまえを取って喰おうなどとは思わないさ」
ポン、とその頭の上に手を置いた。ウルキオラが自ら沙羅に触れたのはこれが初めてのことだった。
線の細い白い手は思っていたよりもずっと温かくて、彼は間違いなくここに存在しているのだと沙羅を安心させる。
でも――ねえ、ウルキオラ。
それでももっとあなたのことを知りたいと願ってしまう私はよくばりかな。
私たちが敵対する立場に置かれていることは十分にわかってる。
そして、今や一隊の副隊長にまでなった私が、その敵に対して心を開くなんて許されないのだということも。
でも……それでも、私は――
「もっと知りたい……ウルキオラのこと」