第4章 Cloudy will be Fine
「ふ……」
笑いを噛み殺したその声にもウルキオラは敏感に反応した。
「……なにがおかしい?」
「なにもおかしくないよ。おかしくないんだけど――」
そう言いつつも、こらえきれなくてくすくすと笑みがこぼれてしまう。唐突に目の前に降ってきた答えに、今まで散々葛藤していた自分がばかばかしく思えてきた。
そしてその答えをくれたのがまさか宿敵の破面とは。ただ話を聞いてもらうだけのつもりだったのに。
それを思うとますますおかしくなって笑いがこみあげた。
胸の内に立ちこめていた暗雲が嘘のように消えて、心は綺麗に晴れわたっている。こんなに清々しい気分は久しぶりで。
笑って、笑って――涙が出るほど笑った。
そんな沙羅に対し、一方のウルキオラは不服そうに顔をしかめる。
そしていまだ笑いがおさまらない彼女に向けて低い声を放った。
「少しは黙れないのか……沙羅」
「あはは、ごめんごめ――」
涙を拭いながら言いかけて、沙羅の動きは置物のように止まる。
「……え? 今――」
首を動かして見ると、隣のウルキオラは不自然なほど顔を明後日の方向に逸らしていた。よってここからでは表情は窺えない、けれど。
「呼んだ? 今私の名前呼んだの!?」
「……喚くな。おい、揺らすな」
狭い枝の上でゆっさゆっさと服の裾を引っぱられ、バランスを崩しかけて制止の声を上げるも、沙羅は嬉しそうに顔を綻ばせるばかり。
「ね、もう一回呼んで? お願い!」
「二度と言うか」
「もう一回だけでいいから! ねえウルキオラー!」
ちょろちょろとまとわりつく沙羅にウルキオラはため息をこぼし、やはり言うべきではなかったかと頭をもたげる。だが――
「先程までの顔よりはずっとマシだろうな……」
消え入るように囁かれたその言葉が沙羅の耳に届くことはなかったが、それを告げたウルキオラの口元には小さな笑みが浮かんでいた。