第4章 Cloudy will be Fine
ひゅう、と風が吹きぬけて俯く沙羅の髪をいたずらに舞い上がらせる。
「……解せないな」
そのさまをじっと見ていたウルキオラはおもむろに口を開いた。
「破面の中では権力の序列はすなわち力の序列を表す。おまえの言う副隊長というのは隊で二番目に権力を持つ者だろう? ならば隊長の次に力のある者がなるべきではないのか」
「ううん……単純に霊力の強さだけで選ばれるわけじゃないの。現にうちの隊にも私より強い人はいるもの」
沙羅より上位席官である清音や仙太郎も、伊達に三席を務めているわけではない。まともにやり合えば負けを見るのは明らか。良くて互角といったところだろう。
それを思えばこそ、余計に躊躇われる。海燕は心技ともに隊のNO.2を名乗るに相応しい人物だった。
だが自分は? 十三番隊屈指の実力を持つわけでもなく、精神的に熟達しているとも言い難い。
こんな未熟な自分が――例え隊士たちが認めてくれたとはいえ――副隊長などという責務ある職位に就いてよいのだろうか。
それが沙羅に決断を踏みとどまらせる最大の障壁だった。
「ならばそれに見合うだけの力をつければいいだろう」
「――え……?」
しばし動きを止めて、彼を見つめた。
「おまえは自分に自信がないだけだろう? ならばおまえ自身が納得できるまで力をつけるしかないんじゃないのか」
淡々と、けれどはっきりと。ウルキオラが風を受けながら紡いだ言葉を、沙羅は頭の中で反芻しながらゆっくりと噛みしめた。
「……うん。そう、思う……」
「じゃあそうすればいい」
「うん。…………あれ?」
導かれるように頷いて、首を傾げる。どうして納得してるんだろう、私。
そう考えてすぐに思い至った。つまりは今の彼の言葉が全てだったのだと。
ああ、そうか……。
やる前からないものねだりをして駄々をこねても始まらない。
力がないのなら、力をつければいい。自信がないのなら、自信をつければいい。
私は副隊長に相応しい強さを身につければいい――ただそれだけなんだ。