第2章 Smile inside of the Mask
互いに一歩も退かないまま見つめあい、数秒。
先に口を開いたのは沙羅だった。
「……やらない」
「怖気づいたか」
「そうじゃない。ただ、あなたと闘う理由はない」
仮面の下の瞳を見据えて首を振る。
「俺は破面だ」
「でも悪い人じゃない」
そう告げると男はあからさまに怪訝な表情を浮かべた。まるで意味がわからない、とでも言いたげに。
それでも目は逸らさない。なんとなく、逸らしたら負けのような気がしたから。
そのまま再度視線が絡まり、やがて破面は諦めたように目線を落とした。
「……おまえのような死神は初めてだ」
「それって誉めてるの?」
「さあな」
とりあえず否定はされなかったので、肯定として受けとっておくことにした。多分この男を相手にするのならそういう捉え方で問題ないと思う。
「探し物はそれで全部か?」
「ああ、うん」
男の問いかけに手の中の紙の枚数を数えれば、ちょうど乱菊から聞いた報告書の数と一致した。報告書紛失の汚名はなんとか免れそうだ。
そう息をついたのも束の間。
「ならばもう用はないな」
「あ――待って!」
男がふわりと白い装束を翻して去ろうとするのを慌てて引きとめる。
「あなた、名前は?」
その声に首だけ振り向いた彼は真顔で問い返した。
「報告書に書くのか?」
「そんなわけないでしょ。名前も聞いちゃいけないの?」
「…………ウルキオラ」
「ウルキオラ?」
「ああ」
男が頷いたのを確認してから、沙羅はにこりと笑顔を向けた。
「そっか。ありがとうウルキオラ。このお礼は必ずするから」
「……敵に礼をするのか?」
「敵にじゃなくて、あなたにするって言ってるの。文句ある?」
挑戦的な口調でそう言えば、ウルキオラはしばし黙りこんで。
小さく「いや」と首を振った。