第2章 Smile inside of the Mask
……まずい。
いくら敵意が感じられないとはいえ、相手は破面。尸魂界に敵対する存在だ。
「大事な任務の報告書をなくしちゃったんだけど、見なかった?」なんて、口が裂けても言えるわけがない。
それを万が一にでもあの十番隊の隊長に知られてみろ。ただでさえ多い眉間の皺の本数が5割増しになること間違いなし、だ。(まだ若いのに)
だから知られてはならない、絶対に!
「そうか――ならばこれは必要ないんだな?」
男が抑揚のない声でそう呟くのと同時にぱらりと一枚の白い紙が降ってきた。
「え……ああっ! これ!」
紙の上の見慣れた文字と文面に、沙羅はわしっと紙を引っつかんで奇声をあげる。
「現世の霊圧の分布状況、虚の出没頻度、そこから想定される破面の個体の数。――よく調べてあるな」
「あ、あの……」
よくよく見上げれば男の手にはまだ数枚の紙が握られており、興味深そうに紙面に目を落としている。
……なんてことだ。
そもそもこれは破面に対抗するために作られた資料。それを当の破面に知られてはまったくもって意味がない。
十番隊長の鬼の形相が脳裏に浮かび、沙羅はくらくらと頭を押さえた。
「あの……これは、その……」
「案ずるな。よく調べてあるとは言ったが、この程度のことをわざわざ藍染様に報告するまでもない」
必死に言葉を探す沙羅とは対照的に、破面は表情ひとつ変えずにそう告げて残りの報告書も彼女のほうへと放る。
「わ! ……本当に?」
「ああ。いずれにせよおまえたち死神に勝ち目はないだろう」
ばら撒かれた報告書をかき集めていた沙羅はその言葉に顔を上げた。
「……なによその言い方。そんなのやってみなくちゃわからないでしょ」
「ではやってみるか?」
唇を結んで強気な視線を向ける沙羅に、男は不意にとん、と木の上から降り立つと正面から向き合った。
初めて
初めて、その顔を間近で見た。
割れた仮面の下から覗く素顔からは感情は読み取れない。
だからこそ余計に、表情を映しださないその中で一点の光を放つ翡翠の瞳が際立って見えた。