第2章 Smile inside of the Mask
「じゃあねウルキオラ。本当にありがとう」
報告書をぴらぴらと振りかざして手を振るとどこか物言いたげな視線とぶつかった。
「……え? なに?」
「人に名を聞いておいて、自分は名乗らないのか?」
「あ、」
言われてみればもっともだ。
沙羅は苦笑を浮かべて非礼を詫びる。
「そうだよね、ごめんなさい。私は沙羅。草薙沙羅」
その、瞬間。
これまで一度として揺らぐことのなかったウルキオラの表情に、初めて動揺の色が浮かんだ。
「……どうしたの?」
「――なにがだ?」
「なにがって」
なんでそんな顔――
そう言おうと口を開いたときには、もういつもの彼の表情に戻っていた。
「……あれ?」
「だからなんだ」
「えーと……ううん。なんでもない」
錯覚かな、と首を傾げていると目の前の彼からふっと息がもれた。
「つくづく変わった奴だな」
……あ。
笑った。
初めて笑った。
愛想のない人と思ってたけど、なんだ。
笑えばいい顔してるじゃない。
「変わってるのはお互いさまでしょ」
そう言いながらもなんだか嬉しくなって笑い返した。
破面と呼ばれる存在に対して、これまではただ「敵」としての認識しか持っていなかったけれど。
彼のような人がいるのなら、もっと知ってみたいとも思った。
そうすれば、いつの間にか敵同士として線引きされてしまった「死神」と「破面」という枠組みを越えて、少しは歩みよることができるのかもしれない。
この終わりの見えない争いを、終わらせることができるのかもしれない。
絵空事だとわかっていてもそう願わずにはいられなかった。
そう思わせるほど、目の前のウルキオラという破面に興味を抱いている自分がいた――