第13章 Bloom on Twilight
「……馬鹿な女だ」
立ちこめる黒煙に目を細めてグリムジョーは低く舌打ちする。
風に流され薄れていく煙の中、次第に姿を現した沙羅は地面に片膝をつき肩で息をしていた。その右手には天に向けて垂直に立てられた斬魄刀がしっかりと握られている。だがその刀身が放つ薄桃色の光はほんの一時前と比べて明らかに輝きを失っていた。
「……っは……はぁっ……」
ぽたぽたと地面に赤いしみが広がる。もはや体のどの部分が痛いのかもわからないほどに全身を焼かれながら、沙羅は必死に意識を繋ぎとめていた。
グリムジョーが放った王虚の閃光を沙羅はかわさなかった。否――かわせなかった。
無論あれだけの霊圧がまともにぶつかればただではすまない。だがその危機に迫られているのは沙羅だけではなく、彼女の背後で平穏な黄昏時を迎えている町にも同じことが言えた。
自分がかわせば、町が吹き飛ぶ。また罪なき魂が犠牲になる。
襲いかかる灼熱の閃光を前に、沙羅は頭で考えるよりも早く夢幻桜花を構え、己の全霊力を以て幻桜陣を繰りだしていた。
「まさか本当に受け止めるとは思わなかったぜ」
「……くっ……」
脳天まで貫かれるような激痛をこらえて霞む視界を後方に向ければ、相変わらず鮮やかな赤に染まる町並みがそびえていた。どうやら町への被害は食いとめることができたらしい。
脱力して斬魄刀を握った右手をだらんとおろすと、沙羅は地面に手をついて安堵の息をもらした。
よかった。今度は……護ることができた。
気の緩みに応じてか、ついに夢幻桜花の解放が解かれその色彩を失う。斬魄刀の解放状態を保つだけの霊力すらとうに底をついていた。
「てめえの身だけ護ってりゃまだ闘えたものを――」
音もなく視界に影が落ちる。やっとの思いで首を持ちあげれば、虚ろな瞳にぼんやりと空色が映った。
「わかるか? おまえのその甘さが死を招いたんだ。まァ今更言ってもどうにもなんねえけどな」
す、と目の前の男の剣が上を向く。
「あばよ死神。……楽しかったぜ」
夕日を受けて煌めく刀身が自らに向けて振りおろされるのを、沙羅はどこか他人事のような感覚でぼんやりと眺めていた。