第13章 Bloom on Twilight
ごめん。
ごめんね。
私はまた、あなたを置いて逝くことになるみたい。
ねえ
叶わぬ願いだとわかってはいるけど
どうせ死ぬのなら、もう一度あなたの腕の中で死にたかったよ――
西に大きく傾いた太陽がその姿を照らしだす。
身を切り刻むまであと数cmというところで動きをとめた剣の切っ先を沙羅は呆然と見つめ、そしていつの間にか視界に割りこんでいた影を見上げた。
純白の衣が風に揺れている。
それは対峙していたグリムジョーのものではなく、その彼と自分の間に入るようにして、見覚えのある白い装束が揺れている。
「てめえ……なんの真似だ」
「…………」
険しい口調のグリムジョーにも、影の主は刃を右手で抑えたまま答えない。
だが沙羅は知っていた。その背中を幾度となく見つめてきた。
「ウルキオラ……」
思わず口をついて出たその名に、反応を見せたのはグリムジョー。
「あァ? なんでおまえが――」
「退がれ、グリムジョー」
その声を遮って静かな低音が響く。
声の主である同僚の顔をまじまじと見つめたグリムジョーは鼻で笑った。
「ハッ……まじかよ? 最近やけに現世に入り浸ってると思ったら、こともあろうに死神にご執心か? 藍染サマのお気に入りのてめえが!」
「退がれと言っている」
ぐいっと剣を押し返してウルキオラはグリムジョーを見据えた。向けられた翡翠の瞳がいつになく熱を帯びている。
「生憎俺はてめえに命令される筋合いはねえ。だが――」
グリムジョーはちらっと沙羅に視線を移して口の端をあげた。
「こんな面白い女を殺すのももったいねえしな。てめえに貸しを作っとくのも悪くねえ。いいぜ、ひいてやるよ」
斬魄刀を鞘に戻しグリムジョーは身を翻した。
「命拾いしたな、女」
振り返りざまにそう呟いたグリムジョーに声をあげる間もなく、その姿は黒腔の中に消えていった。