第13章 Bloom on Twilight
再び斬りかかってきたグリムジョーを視界の中心に捉えながら沙羅は夢幻桜花を水平に構えた。
「――桜花乱舞(おうからんぶ)!」
斬魄刀の刀身から溢れでた桜の花弁は、今度は沙羅を護るためにではなく直接グリムジョーの身に襲いかかった。
一枚一枚に微量の霊圧が込められたそれは、グリムジョーの視界を埋めつくし動きを封じる。だがそれもほんの一瞬に過ぎなかった。
「ハッ、こんな目くらましで!」
「そう、ただの目くらまし」
「っ!?」
全身から迸る霊圧を放ち、花弁を散らしたグリムジョーの背後で影が揺れた。
ザンッ――
「……ぐ――」
だらりと垂れさがった右腕から真新しい血が滴る。
深々と斬りつけられた肩を押さえて、グリムジョーは獣のような形相で沙羅を睨みつけ、そして低く笑った。
「はっ……まさかここまでやるとはな」
「あなたが上を目指すのと同じように、私にも負けられない理由があるの」
「……面白れぇ。褒めてやるよ、この俺に本気を出させたことをな」
「!」
ざわりと全身が総毛立つのとその場の空気が震えるのとは同時だった。
見たこともないような高密度の霊圧がグリムジョーの左の手掌に凝縮されていく。それは彼が先程放った虚閃と似ているようで、しかしその質量は全く比べ物にならない。
空気のみならず大地が震え、頭上の木の葉が大きくざわめいた。
「――っ」
幻桜陣では受けとめきれない。放出される方向を瞬時に見定めて、避けるしか――
身をかくす場所を探して振り返った沙羅の瞳に、鮮やかな夕焼けに染まる空座町の町並みが映った。
「王虚の閃光グラン・レイ・セロ!!」
次の瞬間、灼熱の青い閃光が爆風と共に沙羅を包みこんでいた。