第13章 Bloom on Twilight
シャン……
踏みこみの構えを解き、斬魄刀を腰の位置までおろした沙羅にグリムジョーは鼻で笑った。
「どうした? 命乞いでもするのか?」
「そんなことをして意味があるの?」
逆に鋭い視線で問い返す沙羅を彼は満足げに見やる。
「ねえな。今更ひれ伏したところで逃がしゃしねえよ」
「……でしょうね」
ふぅっと小さく嘆息し、空いている左手を胸元に寄せた。
「命乞いはしないけど、犬死する気もない」
そう、だから
闘うしかない。
胸にあてた掌に霊圧をこめると、その下に描かれた待雪草の紋様が赤く浮かびあがった。
「限定解除!」
その言霊と同時に凄まじい霊圧が沙羅の中から膨れあがった。
「……っ!?」
目を焼くような赤い閃光にグリムジョーは咄嗟に顔を逸らす。
一瞬の後、正常な視界を取り戻したグリムジョーの瞳には、それまでと同一人物とは思えない霊圧を身にまとった死神が立っていた。
「てめえ……霊圧制御してやがったのか」
「好きで制御してるわけじゃないけどね」
眼光を光らせるグリムジョーに怯むことなく返す。
他の隊長格同様、沙羅もまた副隊長への昇格後は現世におりる際に限定霊印を打たれ、霊圧の80%もの封印を施されるようになっていた。
霊圧の限定は現世の霊なるものに不要な影響を及ぼさないようにとの配慮であり、本来であればその解除には中央四十六室の認可を要する。だが先日の十刃襲撃の一件以来、防衛体制強化の見解を強めた中央四十六室は、護廷十三隊の隊長格に対し「現世で相応の事態に陥ったときは各自の判断で限定解除して差し支えない」との通達を出していた。
主の霊圧に呼応してか、夢幻桜花もまた一層の輝きを放つ。
その切っ先を真っ直ぐにグリムジョーに向け、沙羅は再び腰を深く落とし身構えた。
「せいぜい足掻いてみるわ」