第13章 Bloom on Twilight
白い衣が宙に舞い、破面と死神の闘いの火蓋は切って落とされた。
グリムジョーが振りおろした一閃をかわし、沙羅はすかさず打ってでる。
ギィン! と金属の擦れる音が空気を震わせる。あえて懐に飛びこませて彼が攻撃を放った直後の隙を狙ったというのに、沙羅の剣撃は難なく受けとめられた。もう一度激しく打ち合い、離れる。
力押しで勝てる相手ではないことは十分に理解している、ならば――
「破道の三十三、蒼火墜(そうかつい)!」
グリムジョーが着地するタイミングに合わせて、掌から蒼炎の霊撃を放つ。だが完全に対象を捉えたはずの炎は次の瞬間バチンと弾き返された。
「……今のはちょっと熱かったぜ?」
立ち昇る煙の中、剣を振るって姿を見せたグリムジョーは沙羅に左手を向けて笑った。
「お返しだ。――虚閃!」
先程よりも威力を増した紅い光弾に、沙羅は斬魄刀を眼前で垂直に構えた。迫る霊圧を肌で感じながらすっと息を整える。
「幻桜陣(げんおうじん)」
直後、あたり一面に桜の花が舞った。天に向けて突き立てた夢幻桜花の刀身から溢れる花弁は、沙羅の身を覆い隠すかのようにその眼前を埋めつくしている。
「ハッ! そんなもんで――」
言いかけたグリムジョーの余裕の表情はすぐに崩れた。彼が放った虚閃は桜の花弁に触れた刹那、次々と霧散しついには跡形もなく消えた。
「へえ……やるじゃねえか」
しばし驚きの色を浮かべるグリムジョー。だがその彼が未ださらさら本気を出していないことを、刀を交えた沙羅は思い知らされていた。
強い。やはり十刃の肩書は伊達じゃない。真っ向からぶつかれば力の差は歴然。
このままの状態で闘えば、すぐさま自分もあの儚く散った隊士たちの後を追うことになるのは明らかだった。