第13章 Bloom on Twilight
次の瞬間、赤く染まる夕焼けを背景に沙羅の斬魄刀が薄桃色に色づきまばゆい光を放つ。解放された夢幻桜花から溢れでる霊圧は、明らかにそれまでのものとは次元を異にしていた。
「おまえ――ただの死神じゃねぇな?」
桜の花びらのそれと同じ色の光を放つ鮮やかな斬魄刀に目を細めて、グリムジョーは問う。
「……十三番隊副隊長、草薙沙羅」
「隊長格か。まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかったぜ」
沙羅の返答にも顔色ひとつ変えずに彼は笑った。
「面白れぇ。相手になってくれよ副隊長」
そう言って剣を構える目の前の十刃はどこか愉しげですらあった。
「……グリムジョー。その前にひとつ聞かせて」
「あ?」
今にも斬りかかってきそうな男を沙羅はぎりぎりの間合いを保ちながらまっすぐに見据える。
「あなたは本当に藍染隊長に賛同しているの? 創造主として仕方なく従っているだけじゃないの?」
「んなこと聞いてどうする」
「もしもあなたが無理やり破面側に縛りつけられているだけだとして――本心では望んでいないのなら。これまでの罪を悔いて今後尸魂界に仇なすことはしないと約束してくれるのなら、私はあなたと闘うつもりはない」
沙羅の言葉にグリムジョーは一瞬だけ目を見開き、その表情はすぐに嘲笑に変わった。
「はっ……ははははは! 闘うつもりはないだと? 笑わせるぜ!」
「本気で言ってるの」
「それが笑わせるっつってんだよ。いいか? 藍染がどうなろうと破面がどうなろうと、俺には関係ねえ」
「だったら――」
「関係ねえんだよ。死神も尸魂界もな!」
沙羅の声を遮ってグリムジョーは剣先を伸ばした。その先に立つ沙羅に向けて、まっすぐに。
「俺は目の前にある全てのものを斬り落として上に立つ。ただそれだけだ」
その瞳に宿るのは高みを目指す強固な野心。それを前にしてはもはやどんな言葉も意味をなさないことを悟り沙羅は静かに斬魄刀を構えた。
「それでいい。せいぜい楽に死ねるよう祈るんだな。――行くぜ!」