第13章 Bloom on Twilight
爆風に巻きあげられた砂埃の中、一瞬だけよぎった黒い影にグリムジョーは意外そうに片眉をあげた。
「……この距離でよけるか」
パラパラと降りそそぐ粉塵を気にもとめず、影が跳んだ先へと視線を向ける。そこには仕留めたと思った死神の女が傷ひとつ負わずに整然と立っていた。
「この前のやつらとは違うみてぇだな」
「……どうして彼らを殺したの」
依然として余裕の表情を崩さないグリムジョーを沙羅は鋭い眼差しで射抜く。
「あァ? んなの決まってんだろうが。藍染サマの命令だ。てめえらが目障りなんだとよ」
予想通りの返答にぐっと唇を噛む。
そう――きっとウルキオラも己の意思で殺したわけじゃない。それが主の命令だったから……仕方なく。
そのときの彼の心境を思うとどうしようもなく胸が痛んだ。その葛藤も、苦しみも、今ならわかってあげられるのに。
「敵を前に考えごとかよ? ずいぶんと余裕だ――なっ!」
最後の声と同時にグリムジョーは剣を抜き、一瞬で沙羅を間合いに捉えていた。
激しい金属音が響く。グリムジョーが振りおろした剣を沙羅の斬魄刀はしっかりと受けとめていた。
これだけの強大な霊圧を持つ男を前にしてまさか油断などするはずがない。ましてや相手は十刃。向かいあって対峙した時点で沙羅はとうに全神経を研ぎすましていた。
その細い体のどこにこんな力があるのかと思わせる勢いで剣を弾き返した沙羅に、後方に跳んだグリムジョーは小さく目を剥く。その隙に沙羅は両手に握った斬魄刀の切っ先を天に向け、高らかな声でその名を呼んだ。
「咲き誇れ、夢幻桜花!」