第12章 Remember
目を開いたとき沙羅は桜の幹にもたれて座り込んでいた。
自分の存在を確かめるように怖々と頬に触れ、そこで初めて泣いていることに気づく。置かれている状況を把握するのに多少の時間は要したものの、頭はやけにすっきりと冴えわたっていた。
「そっか……」
ともすれば風の音に消えそうな小さな声で、沙羅はぽつりと呟いた。
記憶の中、無数に散りばめられた欠片は今綺麗に繋ぎ合わされ一本の道筋を描いている。遠い過去から今この時までの、長い長い運命の螺旋を。
「そうだったんだ……」
全ての記憶を取り戻した沙羅が思うことはただひとつ。ウルキオラに会わなければ。会って、伝えなければならないことがある。
だけど、と拳を握り締める。どうすれば会えるというのか。別れを告げて去ったウルキオラが、再びこの場所に現れるとは考えにくい。かと言ってここ以外に彼が向かいそうな場所など見当もつかなかった。
つくづく自分はあの人のことを何も理解していなかったのだと思い知らされる。思えばいつも話を聞いてもらうばかりだった。沙羅がどんなにくだらない悩みや相談をぶつけても、ウルキオラはただ黙ってそれを受けとめてくれた。
嘘じゃなかった。
あの優しさも、あの微笑みも、あの温もりも。全て嘘なんかじゃなかったのに。
私は何ひとつとして気づけなかった。
『おまえ、前世ではどんな人間だったんだ?』
そう問いかけたときの彼のかすかな期待も。
『おまえは……本当になにも憶えていないのだな……』
そう告げたときの彼の哀しみも。
『沙羅』
『……よかったな』
『知らないほうがいいこともある』
『俺を殺せ』
『すまない……』
これまで共に過ごしてきた多くの時間の中で、彼がたったひとり過去の呵責を背負い続けてきたのだということも――