第12章 Remember
胸が押し潰されそうに軋んだ。
もっと早くその苦しみに気づいていれば。もっと早く思い出していれば――そう悲観に暮れるのは容易い。けれどそれで何が変わるというのか。
沙羅はおもむろに桜の根元から立ちあがり、死覇装に付着した土を払った。涙の跡を拭い、顔を上げる。
ウルキオラとの接点を見つけだすとすればこの現世をおいて他にない。以前語り合ったときにも、最近は特にここ空座町での任務が多いという話をしていた。強い霊圧をしらみ潰しに捜していけば運が良ければ巡り会えるかもしれない。
例えそれがどんなにわずかな可能性だとしても、このまま諦めるわけにはいかない。彼を諦めることなんてできない。
口の端を固く結んで沙羅は公園から跳び立った。
逢いたい。
ウルキオラに逢いたい。
ただその想いだけを抱えて高濃度の霊圧反応を探るも、見つかるものと言ったら怨念に取り憑かれて善良なる魂魄を襲う虚ばかり。
その日何度目かになる虚の昇華を終え、斬魄刀を鞘に戻しながら沙羅は人知れず溜め息をもらした。
「何やってるんだろ、私……」
相手は異界の住人、そう簡単に逢えるずもない。頭ではわかっていても太陽が西に傾くほど落胆は深まった。
次の場所でも見つからなかったら、今日はもう帰ろう。茜色に染まる街並みを遠目にそう思った矢先、不意に巨大な霊圧の波動を感じた。
「……っ!」
空気がビリビリと震える。肌を刺すようなその感覚に背中を冷や汗が伝う。
まさか
まさか――
祈るように跳んだその先で、眩しい白が風に舞った。
*