第12章 Remember
夢の中、哀しそうに自分を呼んでいたあの声。
それはこのひと月もの間ここで何度も耳にしていたはずの声だった。
ウルキオラ――私たちは遠い昔にも出逢ったことがある?
あなたは私を知っていたの?
ここに来れば何かがわかると思っていたのに、ただ懐かしさがこみあげるばかりでどうしても思いだせない。あと少しで全てが繋がるのに。
胸を焼くもどかしさに耐えきれずすがるように桜の幹に手を回す。と、伸ばした指先にかすかな違和感を感じた。
「……?」
怪訝に思って覗きこむと、桜の樹皮がそこだけ綺麗にえぐられたような奇妙な跡が視界に映った。
えぐられた、というよりも何かを深く突き立てられたと言ったほうが近いかもしれない。いつ残された傷跡なのか、パッと見た程度では十分に幹の木目として見なせるほど桜と一体化している。だから今の今までちっとも気づかなかった。
つきん、と刺すような痛みを覚えて左胸を押さえる。そしてもう一方の手をゆっくりと一番深くえぐられた部分に伸ばし、触れた。
「――っ!?」
その途端、触れた部分から熱がはしり沙羅は咄嗟に目を瞑った。すぐさま身構えると同時に開いた視界に見えたのは――白。
「な……何これ」
四方を見渡しても、見えるのはただ白い靄(もや)ばかり。桜どころか白以外のどんな色も存在しない空白の世界に沙羅は呆然と立ち尽くした。
『沙羅……』
「……え……?」
ふいにどこからか響いたのは、あの声。それと同時に理解した。そうだ、ここはあの夢の中の世界だ。
だがいつもとは決定的に違うことがひとつある。それは沙羅がはっきりと意識を保っているということ。
どれだけ目を凝らしても見えない声の主を求めて、沙羅は静かに彼の名を呼んだ。
「ウルキオラ……?」