第12章 Remember
十日ぶりにその公園に足を踏み入れた瞬間、沙羅は息を呑んだ。
「あ……」
頭上を仰いで呆然と呟く。
「咲いちゃったんだ――」
見上げた桜の枝には薄桃色に色づく鮮やかな花が咲き乱れていた。
「……綺麗……」
幾重にも別れた巨大な桜の枝が一斉に花開くさまは圧巻で、思わずそうもらしたのは本心から。だがいくらその美しさを眺めても心は一向に弾まず、ただ言いようのない物哀しさだけがこみあげた。ほんの少し前まではあんなに開花するのを待ち侘びていたのに。
『――おまえとなら見ていて飽きないだろうな』
ちょうど沙羅が今立っている場所のすぐ隣で、一緒に桜を仰いでいた彼がふと告げた言葉が甦る。穏やかな眼差しと重なって、心がくすぐったくなったのを今でもはっきりと憶えている。
「約束は……もう無効かな」
ここで花見の約束をしたあの日がひどく昔のことのように思えた。あの頂上近くの太い幹、ふたり並んで腰かけて、他愛のない話で笑い合ったことも。
急に目頭が熱くなって沙羅は慌てて振り切った。
泣きにきたんじゃない、確かめにきたんだ。キッと顔をあげて桜の木へと歩み寄る。
初めてウルキオラに出逢った場所。
初めてあの夢を見た場所。
全てのきっかけはこの場所にあった。そしてそれはただの偶然じゃない。
ぺたりと桜の幹に手を触れてみる。そこに温もりがあるわけでもドクドクと脈打っているわけでもないけれど、不思議と心は安らいだ。
最初にこの場所を訪れたときに感じた懐かしさは気のせいなんかじゃなかったんだ。私はずっと前からこの場所を知っていた。
そして…………彼も。