第12章 Remember
これでよかったんだ――
そう言い聞かせる理性とは裏腹に、頭は否応なしにあの日の映像を繰り返し再生した。
『ずるいよ……』
涙に濡れた濃紫の瞳が頭から離れない。
『ウルキオラ――――っ!!』
彼女の哀しみに満ちた声も、嘆きも、何もかもが頭から離れない。暴れだす悔恨の念を歯を食いしばって胸の内に押しとどめる。
仕方ない。仕方なかった。あのまま傍にいれば、俺はもっと彼女を傷つけた。
どれだけ深く心を通わせようと、所詮は破面と死神。その間にはどうあがいても越えようのない高い隔たりがある。
だから……これでよかったんだ。
しばらくソファーに身を預けて瞼を閉じていると、扉を隔てて同じ十刃である水浅葱の髪の男の声が響いた。
「おい。任務の時間だ」
「……ああ」
けだるい体を引きずり起こして、白の上着に袖を通した。
こうして俺は、今日もこの服を罪なき死神の血で赤く染めぬく。虚の本能に突き動かされるまま、意味のない殺戮を繰り返す。
沙羅――……
できることなら、いっそ全て忘れてほしい。遥か彼方の記憶など、そのまま失くしてしまって構わない。
そして『過去』の俺のことも、『今』の俺のことも、全て忘れて。おまえにはただ遠い異界の空の下で笑っていてほしい。
幸せになってほしい。
それだけが、二度の生を以てしてもおまえを傷つけることしか叶わなかった、俺の唯一の願いだから――
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