第11章 A Gray Cat
彼女の言葉の意味を理解した沙羅はしばし驚いた顔のまま固まった。霊術院の飛び級斡旋に、護廷隊への入隊試験免除。沙羅ならずとも護廷隊士を夢見る院生にとってはこの上ない待遇だ。
だがその夢のような申し出に沙羅はゆっくりと首を横に振った。
「せっかくですけどご遠慮させていただきます」
「どうして?」
まさか断られるとは思っていなかったのだろう、女隊士は目をぱちくりとさせた。
「私はまだまだ未熟です。霊術院で学ばなければいけないことが山ほどありますから。それに――」
そこで一旦言葉をとめた沙羅は、鮮やかな笑顔で女隊士を見上げる。
「私は自分のやり方で松本隊士に追いつきたいと思うので」
その微笑みは院生のそれとは思えないほど、力強い自信に満ちていた。
「……そこまで言われちゃ引きさがるしかないわね」
口元のほくろをわずかに上に吊りあげて彼女は笑った。
「乱菊」
「え?」
「え? じゃないわよ。あたしの名前! 松本乱菊。――あんたは?」
鼻が触れそうな距離まで顔を寄せられ、沙羅はおどおどと答えた。
「草薙沙羅、です」
「沙羅、ね。待ってるわよ」
目を合わせると、彼女は軽くウインクして笑った。
「だから早くあがってきなさいよね」
それは同性の沙羅ですら思わず見惚れてしまいそうな魅惑的な笑顔だった。
「――はい!きっと……!」
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