第11章 A Gray Cat
「……あんた――」
巨大虚が消えて静まり返った空間で、斬魄刀を握りしめたままぼんやりと空を仰いでいた沙羅はその声にはっと我に返った。
「あ……大丈夫ですか!? お怪我はありませんか?」
「それはこっちの台詞だっての。それよりも、あんたのその斬魄刀――」
女隊士が指さした沙羅の刀は、普段よりも刀身が長い形状に変化し、まばゆい薄桃色の輝きを帯びている。
「驚いたわよ。斬魄刀の解放なんていつ覚えたわけ?」
「私にもわからないんです。急に声が聞こえて、それで……あれ?」
そう言う間に刀身の光はみるみる失われ、やがてただの刀に戻った。
「え……なん、で」
言いかけて唐突にぐらりと傾いだ沙羅の体は、それを見越していたかのような女隊士の腕に支えられた。
「一気に霊力を使いすぎたのよ。まさか無意識に始解を習得するなんてね」
「始解……?」
「そうよ。声が聞こえたんでしょう? 斬魄刀があんたを認めてくれた証拠よ」
「斬魄刀が……」
今にも意識を奪われそうな疲労感に襲われながら、沙羅は手の中の刀をまじまじと見つめた。
先程までの輝きが嘘のように、なんの変哲もない刀に戻っている。けれど。
『我が名は――夢幻桜花』
そう告げた清らかな声は、くっきりと耳に残っていた。
*