第11章 A Gray Cat
背後で突如膨れあがった霊圧に女隊士はすぐさま振り返った。
「そんな……まさか」
見開いた瞳には、薄桃色に輝く斬魄刀を握りしめた少女の姿がくっきりと映しだされている。
「ありえないわよ……院生が斬魄刀解放なんて――」
ごくりと喉を鳴らした次の瞬間には、少女は刀を振りかぶって高く跳躍していた。
ザムン――ッ! と鈍い音を響かせて、巨大虚の体が真っ二つに分かたれる。肉片と化した虚は悲鳴をあげる間もなく昇華された。
そしていまだに自分が目にしている光景を信じられない女隊士に、少女はバッと顔をあげて叫んだ。
「松本隊士! 後ろです!」
「っ!」
少女に気を取られた一瞬の隙に、相手にしていた虚のうちの一体が背後に回りこんでいた。
「なめんじゃないわよ――灰猫!」
呼び声に呼応し、ふわりと虚に降りかかった灰が鋭い刃と化してその身を切り刻む。動きを停止した虚にとどめの一撃を刺すと、その隣でもなにかが倒れる音が響いた。
「……来世では安らかな生を」
少女がその言葉と共に薄桃色の刀身を急所に突き立てると、最後の一体の虚は儚げな声をもらして空に還っていった。