第11章 A Gray Cat
威勢の良い返事を返したものの、今日初めて虚を相手に闘う沙羅にとって巨大虚の威圧はあまりあるものだった。
「縛道の四、這縄(はいなわ)!」
縄状の霊子が沙羅の掌から放たれ、巨大虚の動きを封じるように絡みついていく。だがすべてを巻きつける前にその縄は呆気なく引きちぎられた。
(だめだ……体が大きすぎて縛道じゃ封じられない)
注意深く虚との距離を取りながら沙羅は歯噛みした。鬼道をぶつけるにも詠唱が間に合わない。かと言って詠唱破棄した鬼道をあてたところで、今の自分が練った霊撃などたかが知れている。
「正面から斬り伏せるしかない」
覚悟を決めて斬魄刀を構え、虚が上段から爪を振りおろすのを待った。瞬歩でわずかに横によけ、空振りを誘ったその隙に顔面を狙う――そのつもりだった。しかしそのとき沙羅を狙って繰りだされた腕は一本ではなかった。
「しまっ――」
反対側から近づくもう一本の腕に気づいたときには遅く、衝撃をもろにくらった沙羅は側面の壁に叩きつけられた。
「げほっ……かはっ!」
嘔吐感をこらえてすぐに立ちあがるも、巨大虚が次に狙いを定めたのは目の前でふらついている沙羅ではなく、その後方で二体の虚相手に優勢に立っている女隊士のほうだった。