第11章 A Gray Cat
「へぇ~。なかなかやるじゃないの」
「……試験の結果、聞いてもいいですか?」
「ま、これだけ綺麗に片づけられちゃ不合格にする理由もないわね」
そう告げた女隊士に沙羅はぱぁっと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます!」
「別にお礼言われるようなことじゃないわよ。これがあんたの実力ってことでしょ」
頭をさげる沙羅に女隊士は不敵な笑みを向けて、そして――とまった。
「……? どう――っ!」
沙羅が異変を感じとったその瞬間には、沙羅の体は女隊士によって突き飛ばされ後方に吹っ飛んでいた。間を置かずしてたった今まで沙羅が立っていたその場所に激しい霊撃が落ちる。
「これは厄介なのが出てきたわね……」
ふたりの前に現れたのは、頑強な体躯を誇る三体もの巨大虚(ヒュージホロウ)だった。
「巨大虚……!? どうして……」
「さっきの奇声は仲間への合図だったってわけね……。ここまで接近されるまで気づかないなんて、迂闊だったわ」
低く舌打ちすると、女隊士は愕然と立ちすくんでいる沙羅を振り返った。
「まだ瞬歩は使えるわね?」
「え……?」
「あんたは集合地点へ戻って他の隊士に連絡して。相手は巨大虚三体、十番隊松本が応戦中――ってね」
「なっ……できません! 私だけ逃げるなんて!」
そう言う間にも巨大虚は太い腕を振りあげ、ふたりの立っている場所目がけて叩きつけた。反射的に瞼を閉じたものの、予想した衝撃が訪れないことから沙羅は薄目を開く。
土煙のあがる視界の中、ぼんやりと金色が揺れる。よくよく目を凝らしてみれば、それはあの女隊士が巨大虚の腕を斬魄刀一本で押さえている姿だった。