第11章 A Gray Cat
「この辺でいいかしら――っと。あら、ちょうどよさそうなのがいるじゃない」
軽い足取りで地面に着地した女隊士は、そこから数百mほど離れた先に虚の霊圧を感じひゅうと口笛を鳴らした。その後ろから一体の影が近づき、すとんと彼女の横に降りたつ。まだ慣れない瞬歩を続けて駆使した沙羅は肩で小さく息をしていた。
「ずいぶんと息があがったみたいね。呼吸が整うまであたしが相手しといてあげようか?」
「大丈夫っ、です」
そう言う間にも、こちらの霊圧に気づいた虚はこの場へ近づいてきている。
そうして沙羅が斬魄刀を抜き放ったところで、虚は完全にその姿をふたりの前に現した。先程までの虚よりもいくらか人に近い姿を模しているが、霊圧に大きな違いはない。
油断さえしなければ――いける。
鋭い牙を剥きだしにして喰らいかかってきた虚を宙に跳んでよけ、がら空きになった背後から沙羅は渾身の力をこめて刀を振りおろした。
ゴトン、と虚の左腕が地に落ちる。直前でわずかに体勢を変えられたため両断とまではいかなかったが、それでも目の前の虚に致命傷を与えるには十分な一撃だった。
「グギガガガギャァァァッ!!」
耳をつんざくような奇声に眉をしかめながら、沙羅はもう一度斬魄刀を振りあげる。
「……ごめんね。今楽にしてあげるから――」
ザン……
虚の苦痛に歪んだ叫び声は、沙羅が斬魄刀を鞘に納める頃には鎮まり、やがてその魂は天へと還っていった。
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