第11章 A Gray Cat
「そんなに必死になっちゃって。おっかしーわね、あんたたち」
小馬鹿にされているとしか思えない口調でそうもらした女隊士に、沙羅はむっと眉間に皺を寄せる。
「なにがおかしいんですか? 私たちは真剣に――」
「まあいいわ。実際最後の一撃は見事なものだったしね。雛森、あんたは特別に合格にしてあげる」
「へ……」
沙羅の声を遮って言いわたされた言葉に、四人はぽかんと口をあけた。
「い……いいんですか? でも、それで沙羅ちゃんが不合格になるならあたしは……」
「そうするとまたあんたたちはガタガタ喚くんでしょう? いいわよ、さっきの不正は不問にしてあげる。ただし――」
そこまで言いかけると、女隊士は沙羅に向けてぴっと人さし指を突きつけた。
「あんたには今度こそ誰の加勢もなしにひとりで闘ってもらうわよ。このあたしにあれだけでかい口叩いたんだもの。できるわよね?」
「もちろんです。ありがとうございます!」
挑発的に首を傾げた女隊士に、沙羅は迷わず頷いた。試験を諦めかけた沙羅にとっては願ってもない申し出だ。
「この辺りの虚はさっきので全部倒し終えたわ。他の場所に移動することになるけど――ここと同等の雑魚とは限らないわよ」
「構いません。それで試験を受けさせてもらえるのなら」
「じゃあ一番近い場所まで移りましょ。瞬歩で行くけどついてこれる?」
「意地でもついて行きます!」
「……ホンットいい度胸してるわね。ま、そーゆーの嫌いじゃないけど」
ニッと笑みを浮かべた彼女に力強い頷きを返すと、沙羅はぎゅっと草履(ぞうり)の紐を結び直した。そこに慌てた様子で雛森たちが駆けよる。
「沙羅ちゃん、あたしも行くよ!」
「俺も行くぜ。おまえひとりじゃ危なっかしくて行かせらんねーよ」
「ダーメーよ! それじゃひとりで闘うことにならないでしょ。あんたたちはここで待ってなさい」
「でも……!」
「雛森、大丈夫だから。恋次と吉良も。すぐに帰ってくるよ」
なんの根拠があるわけでもないだろうに、沙羅は笑ってそう言ってみせる。
「沙羅ちゃん……気をつけてね……」
心許なさそうに手を握りしめる雛森に大きく頷いて、沙羅は女隊士の後に続いて飛びたった。