第11章 A Gray Cat
「言いたいことはそれだけ。雛森桃は不正を働いたため本試験を不合格とする。文句ないわね?」
「……はい」
力なく頷いた雛森を見て、女隊士が記録帳を開くのと同時。
「待ってください」
沙羅はその前へと歩みでた。
「お話はわかりました。松本隊士の仰ることはもっともだと思います。……軽率な行動をして申し訳ありませんでした」
女隊士は筆を握った右手をとめたまま、頭をさげる沙羅を黙って見下ろしている。
「……ですが、今回の不正は私の勝手な行動によるものです。雛森は関係ありません。不正行為を罰するというのであれば私を不合格にしてください」
「沙羅ちゃん!?」
その言葉に誰よりも早く反応を見せたのは雛森だった。
「なに言ってるの、そんなのだめだよ!」
「いいの。私が勝手にやったことだもん」
「違うよ! あたしを助けるために出てきてくれたんじゃない! あたし、沙羅ちゃんがいなかったらきっとやられてた。沙羅ちゃんが大丈夫って言ってくれたから倒せたんだよ――!」
「でもそのせいで雛森が不合格になることなんてない。自分がやったことの責任は自分で取るよ」
なんでもないことのようにそう言って、ふわりと笑う沙羅に雛森は声を失う。
「……だめ。だめだよ、そんな――」
それでも懸命に言葉を紡ごうとする雛森の背後で、不意にくすくすと笑い声が響いた。
「え……?」
沙羅と雛森が怪訝な表情で振り返った先で腹を抱えて笑っているのは、紛れもなく金髪の女隊士その人だった。