第11章 A Gray Cat
「言ったわよね? 加勢したら不合格にするって」
「……すみません。ですが雛森は自分の力で虚を倒しました。そこを考慮してもらえませんか?」
「他人の助力を受けてるようじゃ『自分の力で』とは言えないわね」
「雛森はうちのクラスの誰よりも鬼道の扱いに長けているんです。今だって緊張さえしていなければひとりでも十分に――」
「そういう問題じゃないわ」
冷めきった声色で沙羅の主張を遮って、女隊士はじっと沙羅の後ろの雛森を見据える。
「いくら鬼道が得意だろうが剣技が冴えていようが、実戦で使えなきゃ意味がないのよ」
「松本隊士、お言葉ですが……誰しも初めは緊張するものではないでしょうか? 雛森くんが本来の実力を発揮できなかった以上、これだけで不合格と決めるのはいささか早計に思えます」
「こいつ、体はちっさくてもまじで強いんすよ! もう一回ぐらいチャンスをやってくれませんか?」
自分に同調して口々に雛森を擁護する吉良と恋次に、沙羅は嬉しそうに顔を綻ばせた。雛森はそんな三人を呆然と見つめて必死に涙をこらえている。
だが、次の瞬間彼らに降りそそがれた声はあまりに冷たかった。
「あんたたち……なにか勘違いしてるみたいね」
「勘違い……?」
戸惑いを浮かべる四人を前に、女隊士はその鮮やかな金髪を悠然となびかせる。
「これは子供のお遊びじゃないのよ。実力がどうのとか言ってたけど、それを言うなら『実戦で出せる力』があんたたちの実力のすべて。どれだけ潜在能力があろうが、発揮できなきゃ単なる宝の持ち腐れ」
そして再び雛森へと視線を巡らせた。
「――雛森って言ったわね。あんた、もしもさっきこの子が飛びださなかったらどうしてた? 斬魄刀を吹っ飛ばされて、次にどう動くかちゃんと考えてた? ただ頭が真っ白になって立ち尽くしてただけでしょう?」
「それは……」
言いよどむ雛森に、彼女は顔色ひとつ変えずに淡々と言い放つ。
「そこで動けなかったら――あんた、死んでたのよ」
四人はごくりと喉を鳴らして黙りこんだ。あまりにも現実味を帯びて響いた『死』という単語の重さに、誰も口を開くことはできなかった。