第11章 A Gray Cat
「さっきも説明があったと思うけど、今日あんたたちにやってもらうのは虚の昇華! まあ院生の霊力なんてたかが知れてるから最初は雑魚を相手してもらうけど、虚は虚よ。気を抜いたやつは――」
女隊士はそこで言葉を切ると、後ろでパンパンに腫れあがった頬を押さえている恋次と吉良を顎で示した。
「こんなもんじゃ済まないからね?」
「…………」
軽い調子の口調がかえって恐怖を煽り、院生たちは一様に黙りこんだ。
「さ、全員地獄蝶は持ったわね? んじゃサクっと行ってサクっと終わらせるわよ」
髪をかきあげながらなんともやる気のない様子でそう言って、女隊士は穿界門の扉を解錠し、そのあとについて院生たちも門をくぐっていく。
「なんか……綺麗だけど、すごい高飛車な人」
「わわっ、沙羅ちゃん! 聞こえちゃうよ」
隣であわあわと手を振っている雛森に「ごめん」と笑って、沙羅もまた尸魂界をあとにした。
*
現世におりた一行は順当に虚退治を進めていた。
「なんだ、あんたお喋り以外も一応できるんじゃないの。――はい、イレズミマユゲ合格」
「イレズミマユ……っ! ……あ、あざーっす」
霊圧放出装置によって呼びよせられた虚の昇華を滞りなく終えた恋次は、額にピクピクと青筋を立てながらも頭をさげて斬魄刀を鞘に納めた。
「んじゃ次! そこのナヨナヨしてるやつ!」
「……まさかとは思うけど……僕か? 僕なのか?」
「ちょっとぉ! また耳塞がったわけー!? あんたよあんた、そこのお坊ちゃんあがりの!」
「……」
「こらえろ、吉良。あんなんでも大先輩だ」
恋次に肩を叩かれた吉良は、力なくうなだれながらキーキーと甲高い声をあげている女隊士の元へ向かっていった。
「ふわ……阿散井くんも吉良くんもすごいね。ど、どうしよう。あたしみんなみたいにうまくできないかも……」
「大丈夫、雛森ならいつも通りにやればできるよ。はい、深呼吸深呼吸!」
緊張に顔をこわばらせる雛森の肩をぽんぽんとほぐして沙羅が笑いかけると、それにつられて雛森もわずかに表情を緩めて頷いた。
「じゃあ次――雛森桃!」
「はっはい!」
うわずった声をあげて飛び跳ねた雛森は、腰の斬魄刀を抜き放つと現れた虚に向かって果敢に斬りかかっていった。