第14章 帰省前の一悶着【山姥切長義、前田藤四郎】
「……ということで、来週から主は5日間現世に帰省される。出陣・演練・遠征は休止となるが、主がいないからといって羽目を外しすぎないように」
へし切り長谷部がこう言って皆に注意を促したのが、2日前。
本丸内は今週中に済ませる仕事を片付けるために、慌しくなっていた。
執務室でも彩鴇と近侍の山姥切長義が、政府に提出する報告データをチェックしている。
この帰省は毎年のことで、彩鴇は審神者を対象にした健康診断と体力テストを受けている。
これは毎月の簡易健康診断と違い、本丸での生活で身体に異常が出ていないかを現世の検査機関で徹底的に検査するのだ。
「来週から現世に帰省だそうじゃないか。護衛には誰を連れて行くんだい?」
「……誰も連れて行かないけど」
「なんだって?」
長義は驚いて彩鴇に目を向けるが、当人は何食わぬ顔である。
「だって、手続きが大変だし、体力テストとか見られるの嫌だし……」
本丸で生活し始めてから、生活習慣が改善し、畑仕事や馬の世話もするようになって体力も向上したといっても、自分はもともと非常に運動音痴、刀剣男士から見たら、体力なしにも程があるという感想が出るに違いない。
しかし、長義には彩鴇の一時の恥よりも優先すべきことがある。
「近頃現世で審神者が襲われる事件が増えているんだぞ。護衛なしで被害に遭ったらどうするんだ?」
政府にいた頃に現世で審神者が襲撃されたという数々のデータを見てきたのだ。
今も根本的な対応ができておらず、審神者が現世に行くときは、護衛として刀剣男士を連れて行くのが一般的である。
にもかかわらず、彩鴇はお構いなしだと言わんばかりに返答する。
「政府だって対策を進めているし、大丈夫でしょ」