第10章 初志【歌仙兼定、今剣】
こんのすけに一通り案内され、必要最低限の家具が備えられているのは確認したが、部屋を飾るための家具やあれば便利な家具などは、これから揃えなくてはいけない。
見方を変えれば、好きなように模様替えできそうだ。
「ハイテク執務室にするわよ」
「和風の調度品を揃えたいね」
彩鴇と歌仙がほぼ同時に意気込みを述べるが、一言目だけで両者の方向性が違うことは明白である。
お互いに信じられないと顔を見合わせる。
「何を言っているんだい?この屋敷にそんな設備があったら、確実に浮いてしまう」
「まさか、徹底的に純和風にする気なの?ローテーブルに座布団で仕事なんて、非効率にも程があるわ」
怪しい雲行きにこんのすけがあの、と声を掛けるが、虚しくも届かない。
「郷に入っては郷に従えという言葉を知らないのかい?君は今日からここの主になるんだ。僕らの主としてふさわしい振る舞いを身に付けるべきだろう」
「振る舞い云々の前に、これから業務の大半をここですることになるのよ?正座で事務仕事なんて拷問だわ!」
「最初はつらいかもしれないが、じきに慣れるさ。僕は、どこから見られても恥ずかしくない審神者になってほしいんだ!」
この2人、出会って数時間も経っていないはずだが、口論はますますヒートアップしていく。
「お二人ともいい加減にしてください!」
こんのすけが声を荒げる。
この調子では、出陣や鍛刀などの業務説明ができない。
「主さま、正座せずに仕事したいのなら、掘りごたつにして座椅子を用意してはいかがですか?それであれば、歌仙さまの言う和風の調度品として揃えられるでしょう」
こんのすけは毅然と言い放つ。
「まあ、それなら……」
有無を言わさぬ気迫に2人は渋々といった様子で引き下がった。
「まったく、お二人には時間遡行軍と戦うという重要な使命があるのですよ。そのように口論されては困ります」
この苦労がこれからも続くことをこんのすけはまだ知らない。