第10章 初志【歌仙兼定、今剣】
「主さま、歌仙さまがお戻りです」
ちょんと座ったこんのすけが彩鴇を振り返る。
彩鴇が一目散に門へ向かうと、門前に傷の酷い刀が一口転がっていた。
歌仙兼定ー彩鴇が最初に選んだ刀剣男士だ。
審神者に就任して初めての戦いで重傷を負わせてしまった。
確かに敵の数は多く、形勢も不利だった。
しかし、自分以外の審神者だったらこうも手痛い敗戦はなかったのではないかという疑問が頭の中を巡っている。
ーもし、もっと能力の高い審神者だったらー
「こちらが手入部屋です。歌仙さまをこちらに」
こんのすけに促されるまま、小さな鍛冶師に傷んだ刀を渡す。
あまりに傷が深いため、帰還したときには既に人型を保てず、本体だけとなっていたのだ。
「今回は特別に手伝い札をご用意しました。こちらを使えば一瞬で手入れをすることができます」
その小さな体のどこから取り出したのか、こんのすけは木札をくわえていた。
木札には手伝い札と墨で書いてある。
その木札も鍛冶師に渡し、手入部屋を出る。
こんのすけの言う通り、すぐに歌仙は出てきた。
本体の傷も直っており、破れた外套やら身体の傷も無くなっている。
「心配をかけたね。もう大丈夫だよ」
「こっちこそ、怪我させちゃってごめんなさい」
歌仙を労いながらも、彩鴇は表情を曇らせていた。
鍛刀や刀装の作り方を教わる頃には夕方になっていた。
「業務についての説明は以上になります。本日はお疲れ様でした」