第8章 本丸にアマビエ殿がやってきた!【髭切、膝丸他】
奇妙な足跡を辿った先の部屋を覗いてみると、水心子正秀と源清麿が何かを描いていた。
部屋の奥にいるモデルのデッサンのようだ。
モデルになっている者は座布団に座り、小さな口でおはぎを頬張っている。
その姿は、本丸にいれば否応無しに目に入る絵にそっくりだ。
「やっと見つけた!アマビエ、どうやってここに入ってきたのよ?返答次第では、退治してやるんだから!!」
「呼び捨てはアマビエ殿に失礼だろう。遠く海を渡り、除災に来てくれたのだぞ」
「え、えぇ?!」
話を聞くと、どうやらこういうことらしい。
アマビエは肥後国からある予言をしにここまで来た。
その予言とは、今後数年間は豊作が続くが、同時に疫病が流行る。自分の姿を書き写して人々に見せれば、その疫病にかからない、というものだ。
「だから、こうしてアマビエ殿の姿を水心子と写していたところなんだ」
「アマビエ殿は良い妖だぞ。それを退治するなど、我が主には血も涙もないのか」
「悪いの私なのーっ?!」
ここの家主として、正体不明の妖怪を警戒するのは当然である。
しかし、彩鴇の主張は、アマビエを肯定的に捉えている刀剣男士達の猛反論に遭ってしまった。
何日か滞在した後、アマビエは機嫌よく帰っていったらしい。
どうも彩鴇が知らないところで、ひっそりと出ていったようなのだ。
見送りができず、惜しがっている者もいた。
それからしばらくの間は、本丸のあちこちにアマビエの絵が飾られ、どこにいても視線を感じるといたずらやつまみ食いが減ったとか。