第11章 兄さま
お市が出ていった天守閣に俺の重いため息が響く
お市を怒らせ"兄さま"と呼んでもらえず
面には出していないが少々落ち込んでいる
数ヶ月前までは館に引き留め
誰の目にも触れさせぬようにしていた
忙しくたまにしか帰ってやれなかったが
言いつけ通り大人しくお市は籠っていた
館に帰る際には甘味を手土産にすれば
華が綻ぶような笑顔を見せてくれた可愛い妹
最後に会ったのは確かにお市が十五の年
護衛のはずの男に拐かされそうになった
幸いにも偶然通りかかった俺の家臣が助け出し難を逃れた
お市が住む館に謀反を企む輩が忍び込んでいようとはな・・・
館から出ても良いと許可を出したのが間違いだったのだ
だからこそ外出禁止を言い渡した
あの事件から五年、
大切な妹お市には幸せになってほしい
俺を裏切る事の無さそうで
且つ女にだらしなくない男にお市を嫁がす事にした
それが浅井長政だった
「織田家を裏切ると言っていたが・・・」
お市には相手の事を伏せていた筈だが
あの口ぶりは知っている様だ・・・
館に籠っていたはずなのに何故外の情報に詳しい?
俺が知らないことまで何故知っている?
「調べなくてはならん・・・・・か」
天守閣から下を見下ろせば
先程出ていったお市が家康と仲良く
歩いている姿が目に入った
はあっとまた俺の重いため息が天守閣に響き渡った