第11章 兄さま
ここは安土城の天守閣
私は兄さまと囲碁を打っている
パチパチと碁石を置く音だけが天守閣に響く
『負けました』
囲碁を打ち始めて今日でひと月がたつ
今日の勝敗も兄さまの勝ちだ
この一月葉月は一度たりとも勝った事がない
「お市、城に住まないか?」
『囲碁の負けたからといって
その命令はお聞きできません』
つんっとそっぽを向き碁石を片付け
碁盤と石を纏め部屋のはしに移動させた
このやりとりもひと月続いている
「ならば、俺と少し出掛けてはくれぬか?」
『どちらまでいかれるのでしょうか?』
「近くの村に視察にいく
今まで館に籠らせた詫びだと思え」
『・・・はい。おとも致します』
反抗的な態度をとっていようと
兄さまと出掛けると思うと少しテンションが上がる
葉月は素の笑顔を浮かべた
「失礼します」
声と同時に襖が開き家康が入ってきた
『家康、お疲れ様お仕事は終わったの?』
いそいそと立ち上がり家康に駆け寄った
「終わった帰るよ」
手を差した家康の手を掴み信長を振り返った
『では信長さま先程の件
楽しみにしておりますね』
「・・・・ああ」