第4章 合せ鏡
蔵掃除から1週間たったある日、ウチは蘭丸と舞。そして信長の家臣たちと一緒に織田のある領地に来ていた。
「最近、雨が多かったけど今日は晴れてよかった」
「うん。そうだね」
蘭丸が舞の言葉に答えた。舞はちらちらとウチに視線を送るが、ウチはあえてその視線を無視する。
「…………」
今日は町の把握の一環として、領地の見聞に同行させられている。
朝早く、蘭丸と舞が両側を固めてきて外に連れていかれたのだ。
「蘭丸くん、今日は元気ないね。大丈夫?」
「ええ、そうですね?風邪でもひいたんでしょうか…あなたもまだ元気ではな……」
「えっ、そんなことないよ! 行こ行こ」
「う、うん」
ウチと舞は、蘭丸に手を引かれ商店街の並ぶ中心地に向かった。
「こんな辺鄙なところまで、足を運んでいただきありがとうございます。これはうちで一番美味しい団子です。どうぞ召し上がってください」
「?」
舞は戸惑いながらずっしりとした重みの風呂敷包みを受け取っていた。
「っありがとうございます」
「なんかとっても人気者って感じだね」
「ええ、舞さんは優しいので、みなさんが慕う気持ちもわかります」
「え、2人とも何を話してるの」
ウチは笑みを崩さず舞を見つめた。
町の人々は、織田軍が見聞に来たと聞くと、要人を迎えるかのようにもてなしてくる。
「過剰なもてなしはしなくても良い。皆普通に過ごしていろ」
「そういうわけには参りませんよ。私たち皆信長様に感謝してるんです。あの方のおかげで町の治安は良くなりました。子供たちも安心して遊んでおります」
皆織田信長に感謝しているようで、なんとも言い難い感情が心を蝕む。
見聞も半分ほど終えて、ウチは2人から離れようと腰を上げ歩くと、舞に手を取られ何故か森の中へ走り出す。
どうやら案内人は蘭丸のようだ。
「……?」
蘭丸と森の中を進む。
「結構、遠くにあるんだね。お店」
「あ、えーとおかしいな、この辺にあるって聞いたんだけど。俺先にあるかどうか見てくるから、ここで待っててくれる?」
「いえ、舞さんも連れて行っていただけますか?もし何かあったときに1人だと大変だと思うので」
「……でも」
「お願いします」
「で」
「お願いします!」
「う、うん。いいけど」
「天月ちゃん?」
2人は天月の笑顔に圧倒されたのか渋々頷く。