第2章 兄妹
翌日の朝、大広間で朝食を取っていると、少し離れた斜向かいの席に座っている女生徒達が、ハッフルパフのテーブルを盗み見ながらクスクス笑っているのが目に入った。
「ねえ見て、またやってる」
「ほんと意地汚い。ホグワーツの恥じよ、恥じ」
リドルは密かに耳をそばだてた。そして女子生徒達が見ている先に目をやると、ハッフルパフのテーブルで、昨日階段で出会った少女――アリスがパンを幾つかナプキンンに包んでいるのが目に入った。
丁寧に包み、籐かごにパンを入れると、アリスは席を立って大広間を出て行った。その後を黒髪の男――コルウスが追った。リドルは反射的に立ち上がり、取り巻き達に「ちょっと用を思い出した」と言い訳して後を追った。
リドルは気づかれぬよう後をつけた。どうやら2人はふくろう小屋へ向かっているみたいだ。これは好機だ。もしかしたら父親について何か聞けるかもしれない。
ふくろう小屋のに着くと、2人が何か話していいるのが聞こえた。リドルは咄嗟に身を隠した。
「……アリス、いつも言っているが母上にパンを送るのは止めろ。お前に変な噂が付いているぞ」
「でもお兄様。お母様はホグワーツのパンが美味しいって、いつも手紙でおっしゃってるの。宿屋の食事は味気ないって」
「安宿だ、食事が不味くても仕方ないだろう」
「それに長い闘病生活ですっかり元気がなくなっているみたいだし……お兄様と違って、私に出来る事はこれくらいだもの」
「……お前の気持ちは分かる、だがグレイン家の恥になる様な真似は止めてくれ」
「お兄様……」
アリスの顔に影が差しこんだ。2人の間で痛い沈黙が続く。その沈黙を打ち破ったのは、コルウスの溜め息だった。
「分かった、今日は大目に見よう。それよりもこれ、いつもの薬だ。パンと一緒に母上に届けてやれ」
「ありがとう、お兄様!」
アリスは明らかに喜んだ声を上げた。そして1羽のふくろうに荷物を持たせると、空に飛び放った。
そうか、あのパンは病気の母親にあげる為に持って行ったのか。――病気の母親――なんとなく、リドルは自分の母とグレインの母を重ねた。長い闘病生活と言っていたが、命に別状はないのだろうか。