第1章 出会い
「そんな事ない!皆に見せた後、ポケットから出していないんだ!まさか、お前ら取ってないだろうな!」
「そんな訳ないだろう?もう一度よく探せよ」
「それじゃあ、お前たちのローブも探させてもらうぞ!!」
「勝手にしろよ」
取り巻き達は、呆れた様子で承諾した。誰もリドルが取ったとは思ってもいない。
もしここで、自分のポケットから懐中時計が出てきたら、犯人は自分だとすぐにばれてしまう。どうする?どうやってここを切り抜ける?リドルは頭を回した。その時――
「おい、そこのお前達。こんな所でなにをやっている?」
先日見た黒髪の男が、リドルたちの傍に立っていた。
よく見ると、同じスリザリンのネクタイを締め、胸に主席をあらわすバッジをつけているではないか。
これは不味い、この状況をもし教師達にばらされでもしたら、折角長年築き上げてきた努力が無駄になる。リドルは何事も無いと告げなければならなかった。
「いえ、先輩の手を煩わせる程の事じゃありません」
「いいや、この際この先輩の手を借りよう!僕の懐中時計が無くなったんです。それも今しがた!」
例の男は、赤褐色の瞳でジロリとリドル達を見まわしている。リドルは緊張で手に汗をかいてきていた。
そして男がおもむろに懐中時計の持ち主のローブの内ポケットに手を突っ込むと、どうやったのか、そこから銀色の懐中時計を取り出した。
「もしかして、懐中時計って言うのかこれか?」
「えっ?あ、ああ。そうです……」
「これで事件は解決だな。分かったらお前たち、こんな所にたむろしてないでさっさと授業に行け」
リドルは思わず男の顔をまじまじと見てしまった。男は去り際、リドルの耳元で囁いた。
「やるんなら、今度はバレない様にするんだな」
そう言って他人を馬鹿にしたようにフッと鼻で笑うと、廊下の奥へと消えていった。
安心よりも、リドルは屈辱的な気分になった。バレていた上に、助けられた。それはこれまで何でも自分の力のみを頼っていたリドルにとって、これはまさに辱めを受けた事と同じだった。
いつかあいつの鼻を明かしてやる。リドルはそう心に決めた。