第5章 別れ
リドルが教室に着いたのは、ちょうど授業が終わるチャイムが鳴った時だった。生徒達がぞろぞろと教室から出てきて、その中にリドルの取りまき達もいた。
「何処にいたんだい、リドル。君が授業を休むなんて珍しいね」
「先生が気にしていたよ。優等生の君が身体でも壊したんじゃいかって」
「ああ、ちょっと眩暈がして医務室に居たんだ」
リドルはうそぶいた。心臓はドクドク音を立てていた。迅速、かつ慎重に懐中時計を盗まなければならない。アリスの命の灯火は消えかかっているのだ。一刻も早く懐中時計をもっていかなければ。
焦る気持ちを抑えながら、リドルはさりげなく時間を訊いた。
「なあ、今何時だい?」
「今か?15時ちょっと前だ」
「ありがとう」
自慢げにゴブリン製の懐中時計を取り出した男が、再びローブのポケットに時計をしまうのをハッキリ確認してから、リドルはいつも通り仮面のような顔で笑った。
――チャンスは1度だ。出来るだろうか、いや、自分なら出来る。出来なければその時は……。
いやな妄想を振り払い、リドルは機会をうかがった。取り巻き達が何かに気を取られている間に済ませなければ。
「次の授業は『薬草学』だったな。――あぁ、しまった。僕としたことが手袋を忘れたみたいだ。悪いけど僕の荷物をもって先に行っていてくれないか?」
リドルは取り巻きの1人に半ば無理矢理カバンを持たせた。と、同時にカバンの中から教科書やインク瓶や羽ペンがこぼれ落ちた。
これで良い。リドルが慌てて拾おうとしゃがむと、取り巻き達も同じようにそれを手伝った。――今が好機だ。
リドルはどさくさに紛れて、気づかれぬようそっとローブのポケットに手を入れ、懐中時計を盗んだ。そして教科書をカバンに詰め込むと、一旦寮に帰ると言い残し、走って医務室まで行った。