第4章 願い
もう話すのも辛いのだろう。アリスが途切れ途切れに話し始めた。
「私……本当は、知っていたの。お兄様が、お母様に薬と言って、毒を飲ませていた事を……でも、私はお兄様を、信じたかった」
「……アリス」
「だから、これは罰。お母さまが、弱って行くのを、知っていながら、薬を届け続けた、私への罰。それに、お兄様が……お母様の宿代を稼ぐために、盗みを働いていたのも知っていた。……お兄様だけに罪を被せ、良い子のふりを、していたから、神様から罰を受けたんだわ」
「そんな事は無い、お前には何の罪もない!だからそんな事言うな」
「ねえ、お兄様、私のお願いを、聞いて……」
「なんだ?願いなら何でも聞いてやる」
「私を……殺して、欲しいの」
アリスは出来るだけの力を込めて、コルウスの手を握り返した。
アリスは本気だ。冗談でこんな事を言うような子ではない事は兄のコルウスが1番よく知っている。アリスは息も絶え絶えに懇願した。
「分かっているわ……私の病気は、もう、治らない。だったらせめて……これ以上、苦しむ前に、お兄様の手で――」
コルウスは沈黙した。アリスの言う通り、自分達には病気を治す金も無ければ、頼るべく親戚もいない。行く着く先は、このまま世界の何よりも愛しいアリスが、苦しい思いをしながら、いたずらに寿命をのばしていくだけだ。
それならいっそ――コルウスはアリスの額に軽く唇をのせると、ゆっくりと杖を取り出した。
「ありがとう、お兄様」
コルウスは目を閉じ、溢れる感情を抑え、己の心を閉ざした。そして神経を集中し、今まさに消えんとするアリスの微笑みを胸に抱いて呪文を唱えた。
「おやすみ、アリス。……アバダ・ケタブラ――」