第1章 出会い
トム・リドルがその男に出会ったのは、ホグワーツに入学してから4年目の春の事だった。午後の授業が終わり談話室に戻る途中、下品などなり声につられて中庭に目を向けると、自分と同じような黒髪の男が、見るからに下品そうな3人の男に囲まれ、罵倒を浴びている場面を目撃してしまった。
「盗んだのはお前だろ!分かってんだよ!!」
「残念だが、証拠がないな」
問い詰められた男は少しも窮することなく、むしろこの状況を楽しんでいる余裕すら見られる。それが3人組の怒りを逆なですると知っているのだろう。
馬鹿にしたように鼻で笑うと、リーダー格と見られる男が逆上して胸倉を掴んだ。それでも黒髪の男の表情は変わらない。
「ふざけんな!このホグワーツで金を盗む奴なんてお前以外にいるかよ!」
「そんな理由だけで俺を疑っているのか?……知っていたけど、お前相当バカだろう」
「うるせえ!そんなこと言ってはぐらかそうったって、そうはいかねえゼ!」
「そもそも、本当に盗まれたのか?お前の事だ、案外探し損ねてるだけじゃないのか」
「なんだと……っ!」
「後ろの2人も見てるだけじゃなくて手伝ってやれよ。“オトモダチ”なんだろう?いつも3人でベチャベチャ女の腐ったやつみたいにつるんでるじゃないか」
黒髪の男は唇の端を嫌味ったらしく曲げ嘲った。ペースは崩され、いつしか攻守は入れ替わってしまっている。怒りに震える3人を前に、男はその気味悪い笑みを崩さずに囁いた。
「2人でこいつの体を弄って調べてやれよ。案外こいつもそれを待ってるかもしれないぞ?」
それは、まるで光のような出来事だった。あまりの素早い出来事に、鈍い音が遅れて聞こえてくるほどだった。まばたきさえも忘れて、リドルは思わずその光景から目がそらせなかった。
一瞬の静寂の後、男の端整な唇の端から紅い筋がつうっと流れる。歯を食いしばる暇もなかったようだ。
男はおもむろに口を拭い、少し視線を落としてその血の痕と確認する。その刹那、男の眼がまるで今流れたばかりの血のように紅くギラリと光ったのを、リドルは見逃さなかった。